ILCの実現に向け、どのように社会的な合意形成を進めていくべきか理解を深めていただくことを目的に開催しました。講師には、素粒子実験で研究をスタートされ、現在は科学技術社会学を研究されている東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 副機構長 横山広美氏をお迎えし、会場参加及びオンライン聴講と併せ約140名の方にご参加いただきました。
はじめに、協議会共同代表の高橋宏明東経連名誉会長の開会挨拶を行いました。その中では、文部科学省有識者会議の「議論のまとめ」で、「次世代加速器開発に向けた重要な技術課題等を、関係国研究機関が適切に役割分担し、段階的に展開していくべき」とされたことを受け、ILCジャパンや高エネルギー加速器研究機構(KEK)等の研究者コミュニティが、次世代加速器開発を国際的に進めるための予算確保に向け、ILC推進議員連盟や文部科学省に働きかけているなど、ILCに係る最近の動向について紹介しました。横山先生の講演内容は次のとおりです。
○講演 Big Scienceと社会
講師 東京大学国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構
教授・副機構長 横山 広美 氏
まず、第二次世界大戦後の科学と社会の動きとして、最初に科学技術のブームが起き、国威発揚につながる宇宙開発等への取り組みが進んだ。一方、1968年頃から、ベトナム戦争への反戦運動や科学物質の危険性の認識等により、科学者だけに任せられないという科学批判が起こってきた。そして、現在では、倫理面やダイバーシティも十分考慮した、責任ある開発研究という考え方が主流になっている。
これまでの「Big Science」の進め方としては、科学としての投資の価値や、実現可能性への責任について国内外の専門家のコミュニティで議論が成熟した上で国、日本であれば文部科学省と調整を進めることになる。規模が巨大であれば、当初から社会へ情報共有し、応援をしていただくことが重要である。
ILCの地域での認知度等について、2015年、2018年、2019年に岩手、東京、大阪、福岡佐賀で調査を実施した。岩手でのILCの認知度は約8割と高かった。さらに興味深いのは、岩手県も他地域と同様に、ILC誘致にあたって市民が重視する点として、税と国際分担を最も重視していることだった。ILCの科学研究としての意味を良く理解していただいていると頼もしく感じた。
ILCは非常に巨大であり、当然「Big Science」の一つとして、国との連携、政策実現に向けた体制整備が大変重要である。まず初めに国際分担が出来る体制の整備に向けた議論が大事になる。
また、新しい科学技術が出てくると、社会の期待は大きくなる一方、その期待や熱量が現実社会と乖離する危険性を常にはらんでいる。このため、実際の議論の進捗を注視しつつ、期待を高め過ぎないことが「Big Science」の実現に重要である。
当協議会では、地域の皆さまのILC計画への理解が一層深まるよう、研究者コミュニティや関係機関との連携を一層強化し、普及啓発活動等に取り組んで参ります。